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(1)何がホント?
おいらは時々静かに自分の軌跡を振り返る時がある。
振り返るとヒネクレ者のおいらはいつも「本当の事って?」とか、「真実って何?」を追求して来た日々だったような気がする。
言葉を変えて言えば「目に見えない問題の解決」だったと思う。
目に見える問題の解決はいつかどこかで誰かがやってくれる。目に見えない問題はその時点まで誰も気が付いていない。
これこそおいらがやる事かもしれない。そして始まったのが「本当の事って?」とか、「真実って何?」である。
おいらの真実の追及によって当たり前が当たり前でなくなったり、常識が常識でなくなる可能性がある。きっともの凄い批判を浴びたりするだろう。
おいらは機能商品であれば結果が全てと思っている。おいらが言った通りの結果が出ればどんなに批判されても構わない。
レースだって表彰台の一番高いところに立ったヤツが大将である。1位になるヤツは1%の勝つ可能性を積み重ねて100%、つまり勝っている。レースは99%では勝つことが出来ない。機能商品も同じで1%を積み重ね100%で機能商品としてお客様に提供出来ると思っている。
その1%って何かと言えば先ずエンジン(バイク)に悪さをしない素材の使用だ。今風に言えばエンジン(バイク)に優しい商品かな。この1%が最も重要な1%なんだ。
変に思うかもしれねぇが、おいらは人間より機械と対話していることが多い。意思を持たない機械との対話って成り立たないのだが、おいらは五感(時には第六感)を使って対話するんだ。見る・聞く・嗅ぐ・味わう・触るの五感の内、見る・聞く・嗅ぐ・触るの四感を使って対話するんだ。
「見る」はそのままバイク(機械、部品単位で)の外見を見る。「聞く」はメカノイズ、排気音、その他バイクが奏でる音を聞く。「嗅ぐ」は排気の臭いなどを嗅ぐ事だ。「触る」は手の感覚を利用してバイクのあらゆる部分を触って感じ取るんだ。
特にバイクの振動の状態を検知する。これらの四感を駆使してバイクと対話することで現在のバイクの状態や未来の状況が解ってくる。そして一番重要なことが今バイクは何をして欲しいかを感じ取る事ことだ。感じ取ったことがバイクがおいらにして欲しい本当の事なんだ。
それから、おいらの創る油類の考え方は化学(科学)だが、実際に創る時は数学を使っている。
中学生だった頃、エンジン飛行機用の燃料を自作していたのはご存知と思うが、この自作燃料は数学を使って創っていたんだ。
おいらにとってある意味で化学は邪魔な存在なんだ。化学を利用して創ると思った通りのものが中々出来ない。数学は予測した通りの答えが必ず出るし、答えから逆算することも出来る。だから数学を使うんだ。
以前、化学の大手メーカーの化学者と話をしていた時、その化学者が
「頼むから数学で話すの止めてくれ」
って言われた。彼は化学で話をしないと理解出来なかったらしい。本当に申し訳ないことをしてしまった。
余談だが、おいらが広告宣伝をしない理由は、ちょっと前に「食べログ」事件が各情報番組で取り上げ話題になった。これはインターネットに限られたことだけではない。色々な媒体で昔から行われている。と聞く。これが広告宣伝をしない本当の理由だ。
更に言うなら商品力だけで勝負したいからだ。
どんな商品でも使ってみれば本当の事が判る。宣伝広告だけで良し悪しが判るはずがない。永く生きてると嫌って言うほど広告宣伝とはかけ離れた製品を見てしまう。そんな経験も広告宣伝をしない理由かな・・・・・
独り言:相手の立場に立って考えようと努力しているが、人間修行が足りないのか中々上手くいかない。
先を読むことが得意なおいらはきっと深読みし過ぎて上手くいかないのかもしれない。商品開発では何世代か先を読んだ製品をスタンバイさせているんだが・・・・・人間関係では上手くいかない。考え過ぎてしまうのかな・・・・・
(4)SCOOTの仕事
ギアにはバックラッシュと言う遊びのようなものがある。スクーターを発進させるときワンテンポ遅れるのは全てではないがバックラッシュが関係している。
スクーターの動力伝達の最終にギアが使われている。このギアが収納されているファイナルギアボックスはオイルで満たされている。おいらはこのオイルに注目したんだ。
どんなギアでも噛み合わせれば遊びを作らなければならない。この遊びが前述したように発進時などワンテンポ遅らせる原因になっている場合がある。
後輪を回す最終伝達手段であることから、機能としてはチェーンと同じと考える。チェーンと同じと考えることで抵抗を減らせば何か良いことがおこるはずだ。
スクーターに限らないが小さな排気量車(低馬力車)は、良い意味でも悪い意味でも、ほんの些細なことが大きく影響する。
実績のある毛細管現象と表面張力を利用出来るSCOOTを創り上げたんだ。
スクーターを発進させるとファイナルギアが回り始める。ギアが回り始めると、毛細管現象でギアの歯と歯が接している部分に既にオイルがスタンバイしていることから、時間差ゼロでスタート出来ることになる。ギアが回転していれば表面張力などにより、更に遊びは限りなくゼロになっていくことになる。
又、ギアシャフトや軸受けには毛細管現象により、オイルが浸透していく。浸透したオイルはシャフトをフローティングさせ、シャフトと軸受けのクリアランスをゼロにする。
ってな訳で、相対的に遊びは限りなくゼロとなり、発進時の時間差を無くしたり、ギアの抵抗を低減するので燃費が若干良くなったり、最高速が伸びたり、小排気量低馬力を無駄なく使うことが出来る。
容器を100mlにしたのは原付スクーターのギアボックスのオイル容量が90ml前後の容量だったからだ。
1L缶で発売したら売れない(価格も高くなる)と判断したんだ。
ホンダのCB750ホライゾンやスズキのGS650Gなどのシャフトドライブ車に乗った時の経験も活かされることになる。
当時おいらはシャフトドライブのBMWに乗っていた友人の依頼でSCOOTのようなものを創ってあげていた。大変高評で何台かのシャフトドライブ車に乗っているヤツに提供してやった。SCOOT効果に直接関係無いが、ホライゾンのエンジンの静かさは最高だった。オイルタペットだからかな・・・・・
当時E.G.S[LIMITED]やE.G.Aは未だ存在していなかった。
独り言:大学時代学んだコンピュータはIBM寄贈の真空管式のものだった。稼動時の温度を下げるため、コンピュータルームは夏でも冷蔵庫の中にいるような寒さだった。
このコンピュータを収めるために大学はビルを新たに建てた。操作盤(今で言うキーボードのようなもの)は一つだけ。
あれから半世紀弱、遥かに性能の優れたスマートフォンのような掌サイズになるとは・・・・・
(3)CPOの仕事
おいらが輸入商社にいた頃、会社の側に営業倉庫があった。荷物の搬入が頻繁に行われて、トラックから倉庫の中へ荷物が搬入されていた。その搬入時に使われていたのが、ローラーコンベアーだ。当時は気が付いていなかったが、後年、このローラーコンベアーにヒントを得てC.P.Oを創り上げたんだ。
ローラーコンベアーのローラーとローラーに乗って運ばれる荷物がチェーンとスプロケットの関係に見えたんだ。
ローラーコンベアーのローラーがチェーンのローラー、スプロケットが荷物と考えて欲しい。ローラーコンベアーと荷物の間に油は存在していないのに、滞ることなく荷物は倉庫内に消えて行く。答えは簡単ローラーが回っているからだ。そんなの当たり前じゃねぇかって誰だって思う。
チェーンを見てみよう。チェーンにもローラーが存在している。
油の可能性(3)ほったらかしの項で、行きつけのバイク屋で見たリアスプロケットが打ち寄せる波の形のような変な減り方をしてたことを思い出して欲しい。これが大きなヒントになった。
いつものようにおいらの頭の中で、ローラーコンベアーと変な減り方をしていたリアスプロケットが合体したんだ。
ローラーコンベアーと荷物、ドライブチェーンとスプロケット、夫々が行う仕事に全く違いは無い。
では一般的に何故ドライブチェーンとスプロケットに潤滑が必要なんだろう。
誰もが考えなかっただろう「ドライブチェーンのローラーが回っていないのでは?」とおいらは考えた。
指でドライブチェーンのローラーを触れば答えは簡単に出た。推察通りローラーは回っていなかった。
回っていないからローラーにスプロケットが引きづられ、潤滑剤として塗布されている油に引き寄せられた砂などによって、打ち寄せる波のような変な減り方をすることが解った。
んじゃあローラーを回してやれ!だ。
チェーンのローラーを回すのって結構難しいんだ。
ローラーとサイドプレートの隙間に入り込んでくれる油はおいらの知る限り無かった。
んじゃあどうするかだ。
おいらには強いミカタがいる。毛細管現象を利用することだ。
どんな油を塗布したって、ローラーとサイドプレートの隙間に入り込むことが出来なかったのに、毛細管現象を利用すれば、簡単に油を滑り込ませることが出来る。滑り込ませる油もチェーンに適したものでなければならない。単に極圧効果の高い減摩剤を使ったって無駄ってぇもんだ。
チェーンのローラーさえ回ってくれれば、ローラーコンベアーと荷物の関係と同じになり、ローラー表面やスプロケットを潤滑する必要は無くなる。だから油の飛び散りが無くなるってぇもんだ。
又、毛細管現象と表面張力により、前述したABSO[FRIEND]の埃を吸い出す機能と同じく、埃や固着しているグリス類を排出する自浄作用も特筆出切る機能の一つだ。
C.P.Oを発売したことで円陣家商品の評判が上がり、他の商品も売れ始めた。でも、相変わらず、おいらは満足していなかった。
効果の持続性と耐水性がイマイチ気にいらねぇんだ。
それからC.P.Oをスプレー式にしなかったのはスプレー式のロスがあまりにも大きいからだ。チェーンにスプレーすると約40%は大気放出され60%程度しかチェーンに付かないからだ。
C.P.Oだけではなく他の商品もなぁ〜んか物足りねぇ、何だか解らないが何かが足りねぇような気がしてしょうがねぇんだ。
独り言:あの3.11の時、かみさんは池袋にいた。サンシャイン60が揺れているのを目撃した。おいらは自宅で愛犬を脇に抱え、どお逃げようか考えていた。
家の前の道は狭い、もし建物が倒れれば下敷きになる。二階に居たので地震が収まるまでいることにした。決めた途端、かみさんの事が心配になり電話した。直ぐにつながり、かみさんを勇気づけながら歩いて帰ることを薦めた。
無事家に着いた。PHSで良かった・・・・・携帯のヤツ等に電話しまくったが全くつながらなかった・・・・・
(2)ABSO[FRIEND]の仕事
かなり昔の話だが、カワサキZ2のフロントフォークをバラしてオイル交換をしていた時だ。スプリングを外しオイルを抜いている時、インナーチューブを逆さまにしながら上下に動かしていたんだ。
そん時、以前から思っていたことであるが、何でこんなにインナーチューブの動きが重たいんだろうと思ったんだ。漠然とフロントフォークを見ていたらダストシールに目が釘付けになった。ダストシールの下にはオイルシールがある。両方共にゴムで出来ている。消しゴムと同じだ。
だったらオイル注してみっかってぇんでエンジンオイルが傍にあったんで、インナーチューブとダストシールの境目に注してみたんだ。
思った通り今までの重さが嘘のようにスコスコと軽く上下するようになった。
ところがである。注したオイルがエンジンオイルと言う事もあり、埃がくっ付き汚ねぇったらありゃしねぇ。色んな油を試してみたが、どれも欠点が目立ち使い物にならなかった。
仕方が無いので簡単に塗布出来るスプレー式の防錆潤滑剤を何種類か試してみた。その中から一番良かったヤツをしばらく使ったんだが、耐久性が乏しく走行前に塗布しても大してもたなかった。
それからスプレー潤滑剤を使用するとダストシールやオイルシールの劣化が早く、まいった。使用目的が違うんで仕方ない。
ただ、効いている時のサスの追従性は素晴らしくダストシール及びオイルシールの抵抗を取る重要性をヒシヒシと感じていた。
時が経ち円陣家をスタートする前だったと思うが、スズキウルフ200に乗っている時にふとサスシールの抵抗のことを思い出したんだ。ガレージに戻り早速色々試してみたんだがZ2の時と同じで半ば諦めかけていた。
そん時、目に入ったのがズーっと愛用していたワックスだ。ワックスだったら埃も付かないし、ツルツルして滑りもいいんじゃないか?とワックスをインナーチューブに多めに塗ってみたんだ。
ダメだった。そして、いつしか情熱も冷め諦めてしまった。
円陣家をスタートさせたことで油を扱うことが仕事となった。ってなことでサスシールの抵抗低減剤も開発しなくてはならなくなった。
「油でありながらワックスのように」をテーマに開発をスタートさせた。今まで商品化してきた商品に使われている素材や未使用の素材など丹念に今一度吟味し、適したものを選び出すことから始めた。
意外と簡単に見つけることが出来た。直ぐに試作し何台かあるマイバイクで試してみた。いつものように出入りしている若い連中にも使ってもらった。
意外な答えが返ってきた。汚れが目立つと言う事だった。確かに黒いゴム輪をはめたような汚れがインナーチューブの周りに確認出来たんだ。
おいらは皆に説明するのを忘れていたことがあって、それがダストカバーとオイルシールが保持している埃を吸い出す能力だった。サスを何回か押し引きしながら吸い出された埃を拭き取ることで次第に出なくなってくるのだ。潤滑時間も長く、オイルと違って汚れも無い。とりあえず第一回試作は成功した。使用後の状態を確認しレシピを調整し商品化した。
ABSO同様ABSO[FRIEND]も市場で受け入れられ好評だった。
ただ、耐久性がイマイチと一人おいらは思っていた。
独り言:人の才能っていつ目覚めるか判らない。何か興味を持ったことを夢中でやってると才能が目覚める時がある。好きこそ物の上手なれとはよく言ったもんだ・・・・・
(1)グリスの仕事
或る時、ガレージの奥でひっそりと朽ち果てようとしていたスズキRG500ガンマを、おいらのところに来ていた若い連中と引きずり出し、再生することにした。
先ずガレージから引きずり出し長年蓄積された埃だらけの車体を洗車したんだ。洗車が進むにつれ若い連中がどよめいた。もの凄く綺麗だったからである。
只、チェーンが部分的に赤錆になっていた以外、驚くほど綺麗な状態だった。
おいらは新車購入時に必ず足周りをばらし、グリスアップと増す締めすることにしている。
このガンマも1985年当時新車が自宅に届いた時点でグリスアップとボルト類の増す締めを行っていた。1985年に現在のGRESIN[LG]の考え方の元になるようなグリスGRESINを創っていた。勿論、販売しようなんて全く思ってもいない、個人使用として創っていた。
ガンマの車軸を抜いた時だ。10年以上何もせず、ほったらかしにしていたにも関わらずナットを緩めシャフトを親指で押しただけでスーっと抜くことが出来た。これにはおいらもビックリこいた。
シャフトのグリスが塗られていた部分は新品部品のようで、錆など全く発生していなかった。更に良くグリス塗布面を見ていると、1985年当時間違いなくグリスを塗ったはずなのにオイルを塗ったようなシットリ濡れた状態で、グリス状のものは全くなかった。
おいらの何故何故問答が始まった。
グリスが劣化するプロセスだが、最初ネットリした状態のグリスは稼動部分が稼動することで熱が発生すると、ネットリしたグリスはオイル状になり潤滑を始める。稼動部分が停止すると熱が下がることでオイル状になったモノがネットリ状態に戻る。これを繰り返している内に車外放出されたり、劣化したりして残ったものが固着(固形化)してグリスとしての機能を停止するのだ。
ところが、おいらが創ったグリスは固着(固形化)していなかった。これにヒントを得て創ったのがGRESIN[LG]である。
最初グリスそのモノを創ろうと思ったが、グリスも色んな種類があるのでグリス添加剤の方がいいだろうと液体グリスと言う事でリリースしたんだ。
例えば、新品の両面ゴムシールタイプボールベアリングにGRESIN[LG]をゴムシールを慎重に取り、数滴垂らしてやる(ゴムシールは元に戻す)と驚くほど抵抗を取ることが出来る。バイクを押してやると抵抗が低減出来たことを即効体感出来ることで確認出来る。点接触(又は線接触)のボールベアリングでさえ、こんなに抵抗があるんだと思わせてくれる。
独り言:小さい頃の今で言うプラスチックってセルロイドやエボナイトやベークライトだった。セルロイドは写真のフィルムや人形などに使われ、エボナイトは絶縁材として使われ、ベークライトは可塑性に優れ成形材として使われた。
石油が枯渇すると言われる中、これからの合成樹脂の行方は・・・・・